ようやく迎えた、新しい職場での初日。
期待よりも正直な気持ちは、
「ちゃんとできるかな…」という不安のほうが大きかった。
それでも、
前に進むために自分で選んだ道。
深呼吸をして、
その朝を迎えた。
朝の待ち合わせで、少しホッとした瞬間
仕事は8時30分から。
派遣会社の担当者とは、7時50分に待ち合わせだった。
私はいつもの癖で少し早めに着き、
車の中で気持ちを整えていた。
すると担当者から電話が入る。
「渋滞で遅れます。本当にすみません…」
そう言われて待っている間、
思いがけない出来事があった。
前の会社を辞めて、
すでにこの職場で働いている人たちが、
次々に声をかけてくれたのだ。
「○○さん来たの?今日から?」
「うわ〜、うれしい!」
笑顔で声をかけてもらうたびに、
胸の奥にあった不安が、少しずつ溶けていった。
気づけば、
前の会社からこの職場に来ている人は10人ほどいるらしい。
「ひとりじゃない」
そう思えただけで、
心がぐっとラクになった。
制服とロッカー、新しい場所の空気
担当者は10分ほど遅れて到着し、
何度も頭を下げて謝ってくれた。
そのドタバタで、
持ってくるはずの書類を間違えてしまったらしく、
「仕事終わりに必ず持ってきますので…」
と、また丁寧に謝られた。
私は再就職手当に必要な書類をお願いし、
玄関で派遣先へ引き継がれた。
採用担当者に案内され、更衣室へ。
そこには、
私専用のロッカーと、
新品の制服が2組、きれいに用意されていた。
その光景を見た瞬間、
「あぁ…本当に今日から、ここで働くんだ」
と、実感が込み上げてきた。
初めて尽くしの午前中
着替えの手順を丁寧に説明してもらい、
準備が整うと作業場へ。
作業場では担当者が変わり、
手洗いの方法、入室のルール、
作業場の基本から一つずつ教わった。
そのあと、
見習いの私につく作業指導者が紹介された。
工程を一つひとつ、
時間をかけて丁寧に教えてくれる、優しい人だった。
でも――
初めての場所。
初めての作業。
初めての人間関係。
“初めて”が重なりすぎて、
午前中だけで、もうぐったり。
頭の中はパンパンで、
心も体も緊張でカチカチだった。
お昼は「ひとりの時間」が必要だった
休憩室で食べることもできたけれど、
初日の私はどうしても気疲れしてしまい、
車に戻って、ひとりでお昼ごはんを食べた。
車の中は静かで、
誰にも気を使わなくてよくて、
やっと、ちゃんと呼吸ができた気がした。
午後も同じ現場だったが、
作業指導者は別の人に交代。
この人もまた、
穏やかで、丁寧に教えてくれる人だった。
「みんな、いい人ばかりだな…」
そう思いながらも、
気を張り続けた一日は、やっぱり長かった。
初日の本音と、ほんの少しの希望
仕事が終わると、
朝の担当者が外で待ってくれていた。
間違えて持ってきてしまった書類も、
きちんと届けてくれた。
「どうでした?」
そう聞かれて、
私は笑う余裕もなく、正直に答えた。
「気を遣って…疲れました」
担当者は苦笑しながら、
「大丈夫ですよ。
最初はみんなそうです。
慣れたら、ラクになりますから」
と、やさしく声をかけてくれた。
家に帰る頃には、
体はくたくただったけれど――
心のどこかで、
「ちゃんと続けられそうかもしれない」
そんな小さな希望が、
そっと芽生えていた。
読んでくださったあなたへ
新しい場所の初日は、
誰だって疲れます。
気を遣いすぎて、
何もしていなくても、どっと消耗してしまうものです。
それでも、
「今日を終えられた」という事実は、
ちゃんと前に進めている証。
どうか、
今日のあなたを責めないでください。
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