※この記事は
**「第2部|壊れない働き方を探した記録」**の一話です。
再就職してからも、
すぐに元気になれたわけではありません。
怖さが残ったまま働くこと。
距離を取りながら続けること。
無理をしない選択。
第2部では、
壊れないための働き方を探した時間を書いています。
同じように迷っている人に、
静かな安心が届けばと思っています。
仕事に、少しずつ慣れてきた頃だった。
作業の流れも分かってきて、
一日のリズムもつかめてきた。
「このまま、普通にやっていけそう」
そんな気持ちが、
ほんの少し芽生え始めていた時だった。
ある日、
検品作業で見落としをした。
大きなミスではなかった。
致命的な問題でもなかった。
その場で、
軽く注意を受けただけだった。
声は強くなかった。
怒鳴られたわけでもない。
それなのに――
胸の奥が、一気に冷たくなった。
体が先に反応した
頭で状況を理解する前に、
体が反応していた。
心臓が、急に早くなる。
息が浅くなる。
手が、わずかに震える。
「また始まる」
そんな言葉が、
考える前に浮かんでいた。
今、目の前にいるのは
今の職場の人なのに。
ここは、
前の職場ではないはずなのに。
一瞬で、
時間が巻き戻った感覚があった。
怒られたのは「今」なのに
目の前の人は、
ただ事実を伝えていただけだった。
人格を否定していない。
責めてもいない。
感情的でもない。
それは、
頭ではちゃんと分かっていた。
でも、
心と体は違った。
過去の記憶が、
今の出来事に重なっていた。
怒られた瞬間、
私は「今」と「過去」を
区別できなくなっていた。
傷は消えていなかった
正直、
もう大丈夫だと思っていた。
職場も変わった。
環境も変わった。
人も違う。
それなのに、
体は覚えていた。
傷は、
思い出として残っているのではなかった。
反応として残っていた。
怒られること自体が、
怖いわけじゃない。
「あの頃に戻る感覚」
それが、
一番怖かった。
先輩の一言
そのあと、
先輩が近づいてきて、
こう言った。
「最初はみんなミスするよ」
それだけだった。
励ましでも、
説教でもなかった。
でも、その一言で、
体の緊張がふっとゆるんだ。
誰も敵じゃなかった。
責められていなかった。
ここは、
あの場所じゃない。
そうやって、
少しずつ現実に戻ってきた。
回復はゆっくりだった
その日は、
家に帰ってからも落ち着かなかった。
頭では分かっているのに、
心がざわざわしていた。
「また同じことが起きるかもしれない」
そんな不安が、
なかなか消えなかった。
でも、
翌日も、
その次の日も、
普通に仕事は続いた。
誰も責めなかった。
空気も変わらなかった。
それを一つひとつ確認するたびに、
少しずつ、
安心が戻ってきた。
過去は消えない。でも上書きできる
私は、
ここで一つ気づいた。
過去の傷は、
簡単には消えない。
なかったことにもできない。
でも、
上書きはできる。
怒られても、壊れない。
ミスをしても、終わらない。
責められずに、次の日が来る。
その現実を、
何度も体験することで、
体が覚え直していく。
回復は、
劇的なものじゃなかった。
静かで、
ゆっくりした修正だった。
それでも働き続ける理由
怖さは、
まだ完全には消えていない。
今でも、
注意されると体が固くなる。
でも、
前ほどではない。
そして私は、
それでも、
ここにいる。
逃げずに、
職場に立っている。
それだけで、
今の私には十分だった。
▶ 次の話へ
人間関係が怖い。
それでも職場にいる理由を書きます。
※当時、生活や制度について一人で調べていた内容は、
別ページにまとめています。
