※この記事は「質問が怖くなった理由 ― 3人の工場長の話」シリーズの第4話です。
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辞めたのに、終わらなかった
あの職場を辞めて、時間がたちました。
もうあの人はいない。
怒鳴られることもない。
理不尽な説教もない。
今の職場は、前とは違います。
声を荒げる人はいない。
不機嫌で圧をかける人もいない。
質問すれば、きちんと答えてくれます。
環境は、明らかに良くなりました。
それなのに――
忙しそうな空気を感じると、
体が固まることがあります。
忙しそうな背中を見るだけで
質問したいことがあっても、
すぐには声をかけられません。
頭の中で、何度も言い方を考える。
「すみません、少しお時間いいですか」
「今、お忙しいですか」
タイミングを探し、
相手の表情を読み、
声のトーンまで想像する。
そして、その一瞬で心拍数が上がる。
たった一言、聞くだけなのに。
理屈ではなく、反応でした。
今の上司は怒らないのに
今の上司は、逆ギレしません。
「どうしたの?」と普通に聞いてくれます。
説明すれば、ちゃんと答えてくれます。
それなのに、体は先に緊張する。
「大丈夫」と頭では分かっているのに、
胸の奥がざわつく。
これは今の職場の問題ではない。
過去の記憶が、体に残っているのだと気づきました。
3人の工場長のもとで学んだこと
私は3人の工場長のもとで働きました。
その中で、無意識に学んでしまったことがあります。
- 質問すると怒られるかもしれない
- 迷惑がられるかもしれない
- また責められるかもしれない
それは知識ではなく、感覚でした。
怒鳴られた経験。
逆ギレされた記憶。
突き放された言葉。
何度も繰り返されるうちに、
「聞くこと=危険」という図式が
私の中にできあがっていました。
辞めたら消えると思っていた
正直に言えば、
私は思っていました。
「辞めたら終わる」と。
場所が変われば、
全部リセットされると思っていました。
でも、終わらなかった。
環境は変わっても、
体はすぐには安心しない。
それが分かったとき、
私は少しだけ救われました。
これは弱さではなかった
「どうしてまだ怖いんだろう」
最初はそう思いました。
「私が弱いからだ」
「気にしすぎなんだ」
でも違いました。
長い時間、萎縮する環境にいたら、
体はそれを覚えてしまう。
それは弱さではなく、
防御だったのだと気づきました。
あの環境が異常だった。
私はおかしくなかった。
怖さは残っている。でも
今も、完全に消えたわけではありません。
忙しそうな空気を見ると、
一瞬、身構えることがあります。
でも、前と違うことがひとつあります。
もう、自分を責めない。
「また怖くなった」
それだけ。
ダメな自分だとは思わない。
あの頃よりも、
少しだけ自分に優しくなれました。
後遺症という言葉があるなら
もしこれに名前をつけるなら、
「パワハラ後遺症」なのかもしれません。
目に見える傷ではない。
診断がつくわけでもない。
でも、確かに残るものがある。
辞めても、すぐには消えない。
それでも、今は違う場所にいる。
怖さがあっても、
私はもうあの環境の中にはいない。
それだけで、十分前に進んでいるのだと思います。
今、同じように苦しんでいるなら、
環境を変えるという選択もあります。
私は派遣という働き方を選びました。
以前より、少しだけ壊れにくくなりました。
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